【ライフハック】人間社会における微生物の利用

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ライフハック

微生物で害虫を防ぐ

少し大学時代に調べたことについて書いてみたいと思います。休憩がてら読んでもらえると幸いです。

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微生物的除去法

現在の害虫防除の方法としては、殺虫剤をまいて虫を殺すという化学的防除方が主流である。防除効果は迅速に現れるが、人畜に対して有毒なものや害虫に抵抗性がでて、薬剤がきかなくなる事態も起きる。害虫には捕食者や寄生者がいて、これらが害虫の大量発生を抑える働きをする。捕食者と寄生者を天敵と呼ぶ。

捕食者・・・テントウムシ、カメムシ、ダニなど

寄生者・・・寄生蜂、寄生バエ、線虫など

点滴に害虫防除をまかせようとするのが生物的防除法という。この方法だと人間や野生動物に無害で、害虫に抵抗性がでることもない。

微生物的防除には長期防除法と短期防除法がある。

長期防除法

まず病原微生物を人為的に害虫の集団、あるいは害虫の生息地に導入し、その病原体を住みつかせておいて、長期期間病気の流行を起こさせ、害虫の生息密度を経済的な被害のない程度に下げることをねらいとする。

一般に長期防除は、森林害虫のように分布が広く、長年月にわたって防除が必要である場合や、土壌昆虫のように分布が広く、害虫集団の存在がかなり安定しているような場合に用いる。長期防除に適した病原微生物には、ウイルスや、一部の細菌、原生動物などが考えられる。これらの病原微生物を害虫集団へ導入するには、①航空機による直接散布、②実験室で感染虫をつくり、害虫集団内に放す、③害虫の捕食者である小鳥や小動物に病中を与え、病原体の運び屋として利用、④土壌中に病原微生物をすき込むか、圧力をかけて打ち込む、などの方法がある。

短期除去法

病原力の強い病原微生物を多量に直接畑に散布して、害虫をすみやかに発病致死させる方法。

これは、畑作害虫や果樹害虫のように発生が短期間に限られ、しかも被害の大きい害虫の駆除を狙ったもの。短期防除に適した病原微生物には、病原力の強い核多角体病ウイルスや卒倒病菌がある。これらの病原体を含む液剤あるいは粉剤を、散布機を使って化学殺虫剤とまったく同じように散布する。

1)ウイルスを使う

昆虫ウイルスのうち、微生物的防除によく用いられているのは、核多角体病ウイルス(NPV)と顆粒病ウイルスである。これらは病原力が強く、また伝播性もいいので、長期防除にも短期防除にも用いられる。一方、細胞質多角体病ウイルス(CPV)やイリディセント・ウイルスは、病原力はあまり強くないが、宿主域が広く、それだけウイルスがちりばりやすいので長期防除に向いている。

例 マツカレハのCPV

 日本のマツの主要害虫であるマツカレハに細胞質多角体病がある。しかし、元来このウイルス病は発生が少なく、自然界ではマツカレハの生息密度を下げるほどの要因になっていないが、七齢幼虫の時期に松林1エーカーあたり500万個の多角体を散布すると病気が流行し、生息密度を著しく下げる効果があることがわかった。七齢幼虫に多角体を含む液を経口接種し、その結果生産された細胞質多角体をもとにウイルス殺虫剤が製造され、ヘリコプターによって松林に散布された。これによりマツカレハの被害は軽減し、その効果は数年間も続いた。つまり、マツカレハのCPVは長期防除向きの殺虫剤である。

2)細菌を使う

細菌はその生活環の中で芽胞をつくるものと、つくらないものの二つのグループに分けられる。微生物殺虫剤に使われるのは芽胞をつくる細菌に限られている。芽胞をつくらない細菌のなかにも、害虫に対して強い病原力を示す種類があるが、乾燥には非常に弱く、野外では安定した殺虫力が発揮できないので、殺虫剤として使えない。また芽胞をつくらない細菌には緑膿菌のように人間の呼吸器や泌尿器に感染したり、霊菌のように、人間に敗血症をおこしたり、腸に感染することがあり、安全性の点で問題がある。

芽胞を作る細菌のうち、微生物的防除によく使われているものは乳化病菌と卒倒病菌(BT菌)である。

例 乳化病菌

 乳化病菌の芽胞に炭酸カルシウムやタルクを混合して粉剤をつくる。この粉剤1gには芽胞が1億個の割合で入っている。アメリカでは、かなり前から、この粉剤を畑にすき込むか、圧力をかけて土壌中に打ち込むかして、土の中に住むマメコガネ類の幼虫が駆除されてきた。1940年代の10年間に、芽胞にして、実に109tの量が東部13州の9万地区に散布されたという記録がある。土壌にはほとんど影響はなかった。

3)糸状菌を使う

糸状菌を使って害虫を防除する試験は今まで数多く行われてきたが、そのうち効果の期待できるのは黄きょう病菌、緑きょう病菌、黒きょう病菌、疫病菌のある種、ヒルステラ菌など数種にすぎない。このように糸状菌を畑に散布してもあまり殺虫力が発揮されないのは、分生子の発芽が温度と湿度に左右されやすいからである。糸状菌殺虫剤の場合は散布のタイミングが重要で、宿主害虫の感受性の高い若齢幼虫期をねらって、比較的気温が高く、また雨が降った直後や灌漑の直後など湿度の高い磁気に散布する必要がある。

糸状菌殺虫剤は短期防除に向くといわれているが、黒きょう病菌のように土壌で植える糸状菌は、土壌害虫の長期防除に利用できる。

例 ヒルステラ菌

 アメリカのフロリダ州では、オレンジを加害するミカンサビダニをヒルステラ菌を用いて駆除する実用化試験が行われている。この糸状菌は寒天培地を使って簡単に量産でき、また分生子はマイナス20℃に保存すれば、少なくとも2年間は病原力が衰えないので利用しやすい菌である。

 実際には、分生子や菌糸を重量で浮遊させた液をこしらえ、果樹に散布するとダニの減少が目立ち始めた。この殺虫効果は半年から1年間も持続した。

4)原生動物を使う

原生動物は生体でしか増殖しないので、量産は不可能であり、感染してから発病致死するまでの期間も長いので、害虫の短期防除にはまったく不向きである。しかし、原生動物は宿主域が広く、また病原体は経卵伝達によって害虫の次世代へ能率的に伝えられるし、また小鳥などの捕食者による伝播も起こりやすいので、長期防除には利用可能である。

例 Nosema locustae

 アメリカ西部の牧草地を荒らしまわる害虫に、バッタ類がある。牧草地は広大で、人畜への有害性を考えると、化学殺虫剤を毎年大量に散布することははばかられる。

 ちょうど都合よく、バッタに感染する原生動物の微胞子虫、Nosema locustaeが発見された。この微胞子虫は58種のバッタとコオロギに感染し、主に脂肪体、神経、生殖器を侵し、胞子をたくさん形成する。形成された胞子は糞とともに排泄され、2次感染源となる。

実際に牧草地に胞子をすぁんぷしてバッタを防除する場合には、1エーカーあたり25億個の胞子を1.7kgのコムギのふすまにまぶして散布する。バッタはコムギのふすまを好んで食べるからである。ある散布試験の結果では、バッタの数が無散布区の50~60%に減少したまま4~6週間も続き、しかも生存したバッタでも、その40%近くが感染していた。この感染しながら生きているバッタは、さらに病気を広めたり、病原体を次世代に経卵伝達するのである。

微生物殺虫剤の利点

・人畜無害・・・化学殺虫剤のように多量に散布しても自然環境を破壊することはまずない。微生物殺虫剤の散布は、永年自然界に存在していた微生物の密度を人為的に多少高めるにすぎないから、環境破壊には至らない。

・残効性・・・微生物殺虫剤を散布して害虫が病気になると、そこで微生物が再生産され、それを2次感染源にしてさらに病気が広がる場合多い。何世代にもわたって効果が持続する。これは化学殺虫剤にはまったくみられない特徴である。

・殺虫範囲・・・化学殺虫剤は害虫も液中も無差別に殺してしまい殺虫範囲が広いわけだが、これとは対照的に、微生物殺虫剤は極端に殺虫範囲が狭い。畑、果樹園、森林などの害虫相は決して単純なものではないので、あまりに殺虫範囲の狭いとこには逆に欠点である。

・総合防除・・・微生物殺虫剤を単独に使用しても、防除効果があるが、天敵昆虫やどのような化学殺虫剤と組み合わせても違和感なく使用できるので、防除効果を更にあげることができる。このように、さまざまな方法をうまく組み合わせて害虫を防除することを総合防除という。

参考資料 「微生物で害虫を防ぐ」 渡部 仁 著

  

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